◆ PEOStのPEOセグメント(n=55)の長さは結晶状態の7/2らせんを想定すると約15.2nmです。一方、ステアリール基の長さは平面ジグザグ状に伸び切っているとすると10.1nmです。実際はステアリールセグメントは結晶化していないのでこれより短いと考えるのが自然です。このようなステアリール基が結合しているPEOStを溶融状態から結晶化させるとどのような凝集構造を形成させるのかが問題です。

◆ PEOStを溶融状態から結晶化させるた時に形成される構造のイメージを描いた図を(Ⅰ)と(Ⅱ)に示します。(Ⅰ)はステアリールセグメントが片側に揃っているモデルであり、(Ⅱ)はステアリール基が上下にランダムに突き出ているようなモデルです。

◆(Ⅰ)は疎水性のステアリール基と親水性のPEOセグメントが相互に避けるように相分離して凝集するというモデルです。PEOStが持っている界面活性剤としての機能も想定して描いたモデルです。ここでステアリール基は非結晶的に凝集しています。
① PEOセグメントは分子量分布を持っているので、PEOセグメントの末端を含む領域では末端基は不揃いになります。このような状況では結晶化できるのはPEOセグメントが揃って横並びしている領域だけです。これは融点低下の理由になるはずです。低分子量のPEOは特に融点低下の原因となるます。その周辺のPEOセグメントが結晶化できなくなるためです。
② ステアリール基とPEOセグメントそれぞれの安定な分子間距離は異なっています。このことは両者の界面付近で欠陥をもとらす理由となります。

◆ (Ⅱ)はステアリール基とPEO相が相分離することなくPEOStが上下がランダムに凝集しているモデルです。この場合、ステアリール基はバラバラに分布するのでPEOセグメントと接する状況が想定される構造モデルです。 

◆ (Ⅰ)と(Ⅱ)のどちらが正しいのか直接的証拠は見当たりません。しかし、溶融状態より結晶化に至る過程で化学的性質の異なるセグメントは結晶化は相分離を伴うと想定するのは妥当であるように思います。

ミクロラボΠSABAE TPSHISADA TAKAHASHI-TAKAO AOKI
(改訂:2019年4月30日)


UTF-Glass-TEM-ED20210417_11430100のコピー