◆ 現在製造されている炭素繊維にはポリアクリロニトリル(PAN)系と石炭または石油系ピッチ系のものがあります。今回の一連の記事では石油系ピッチ系炭素繊維(pCF)の構造の発現機構について説明します。はじめにpCFについて概観しておきましょう。

◆ 石油を減圧下に加熱して蒸留し留分を除いた残留物がピッチです。下図はその主成分である平面状の芳香族多環構造物)です。下図はそのモデル図を示しています。この段階ではトルエンアエチルベンゼンに由来すると考えられるメチル基やエチル基などがまだ芳香環に結合しています(この図には水素原子や二重結合は描きこんでありません)。伊藤ら(*1)らによれば、基本となるは分別したフラクションによりますが4~10個のベンゼン環を含んでいるとされています。
 平面状のは溶融すると光学的に異方性のある液晶状態になります。の間の平行移動やの平面に垂直な軸回りの回転が可能なネマチック液晶です。は一定の化学構造を持ったものではなく、芳香環の数やつながり方、また結合する化学基の種類や数が異なる化合物の混合物であると想定するのが妥当です。
pCF01-ピッチの多環構造-圧
◆ を溶融紡糸して得たpCFを加熱するとメチル基、エチル基、水素原子などが除かれるとともに芳香環の縮合が進行します。その結果、下図に示したグラファイト()の(002)面に含まれる芳香環を含む平面の構造に類似してきます。それと同時に積層の規則性も進行してグラファイトの結晶構造に類似した構造にまで発達していきます。下図にグラファイトの結晶構造を示します。
pCF-Fig03-黒鉛結晶構造-圧
◆ 下図はpCFの破断面の走査電子顕微鏡写真の例(インターネットより引用)を示します。なぜこのような特異な高次構造が発現するのかは興味ある課題であり、筆者らも今回の連載記事でその発現機構を提案するつもです。
pCF02-破断面のSEM-IN-圧

◆ 筆者らは(株)ペトカより提供された熱処理温度の異なるpCFの構造(芳香族多環平面の積層構造、高次構造の発現機構、ボイドなど)を広角X線回折法、小角X線散乱法、走査電子顕微鏡法などを用いて検討しました。今回の記事ではその結果について説明します。特にpCFの小角X線散乱図の赤道上に現れるボイド由来の散漫散乱には重点を置いて説明するつもりです。

(*1)伊藤博徳ほか,燃料協会誌,53,572、1021(1974)[インターネット検索可]

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ミクロラボΠSABAE TOSHISADA TAKAHASHI (高橋 利禎)
福井大工学部卒論 杉江 茂樹

投稿日:2023年2月10日
改訂日:2023年3月3日