◆ 延伸により伸長した高密度ポリエチレン(HDPE)の膜を熱処理すると、長さがある程度は元に戻り、後で述べるように内部を構成する楕円形に変形した球晶の高次構造も回復します。延伸膜を100℃、110℃、120℃でそれぞれ1時間,、空気中で熱処理しました。

◆ 下図の横軸は膜の延伸率(ELONGATION)、縦軸は残留歪(RESIDUAL STRAIN)です。
片Fig3-21-圧
◆ 延伸率(ELONGATION)が40%くらいまでは120℃で熱処理した後の残留歪はほぼ15%以下です。それ以上延伸すると延伸率では大になるにつれて残留歪が大になり、回復不可能な変形が増大していきます。例えば120℃で120%延伸した膜の残留歪は35%(100℃)~11%(120℃)であり、100℃で100%延伸した膜の残留歪は47%(100℃)~25%(120℃)です。

◆ 全般的に次のことが分かります。
 熱処理により残留応力が開放されれば収縮が起こります。低温で延伸した膜の方が高温で延伸した膜より残留歪が大です。このことは低温では回復不可能な変形が起こっていることを示しています。例えば延伸により破断した結晶間の引き伸ばされた分子鎖がそのまま固定されている場合、熱処理により残留応力が開放される過程で分子鎖が収縮し、試料の収縮(構造回復)の一つの要因となります。
 前回の記事で示した①~⑥において構造要素、板状結晶、(hk0)結晶面にはいずれも分子鎖が繋がっているということで、ここに高分子結晶の特徴があります。延伸過程で引き伸ばされたこれらの分子鎖がエネルギー的に高い状態で固定されていると、後の熱処理により収縮が起こるのは当然です。
  一方、結晶だけを考えても変形により内部に歪や欠陥が生じてエネルギー的に高い状態になっておれば熱処理によりエネルギー的に安定な元の構造に回復していくのは当然です。

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ミクロラボΠSABAE TAKAHASHI-KATAOKA

投稿日:2022年5月15日
改訂日:2022年5月30日